体感と実感を礎に、世界へ発信できる映画人を

高橋洋(フィクション・コース講師、脚本コース主任講師)

この学校に来る人たちのスタンスは色々です。すでに映画制作を経験した人もいるし、カメラに触ったことすらない、でも何となく映画に興味があるという人もいる。それでいいんです。あるいは手っ取り早いのは紙に書いてみることだから、まずはシナリオを書いてみたいという人もいると思います。けっこうです。フィクション・コースではもちろんシナリオも書いて貰います。

映画美学校には、フィクション・コース以外に脚本コースというのもあって、こちらはハッキリ「プロ養成」と銘打って商業映画のシナリオ・ライティングを扱います。プロで飯が食えるシナリオを書くためのいわば方法論を教えてゆくのが脚本コースですね。それに対してフィクション・コースは、まずは自分の作りたい映画を形にしてみたい、シナリオもその手段の一つぐらいのスタンスでいます。だから商業性がどうこうといったことは問いません。むしろ、映画にとってより根本的なこと、たとえば「そもそも“優れた脚本”というものが映画には必要なのだろうか」とか「“主人公”のない映画はあり得ないのだろうか」といったことを問い直すことからすべてが始まります。  

そこには、余分な知恵など、なくていいんです。「映画が作りたい。たいして観てはいないけど。でも作りたいので作ってみたらこんなふうになりました!」という予想外の展開こそが、フィクション・コースの特徴だと思います。時として講師もビックリするようなものを、映画初体験の人が撮って来ちゃったりするんですよ。講師にはもう絶対撮れないような。私はここで教えるようになって長く経つのですが、人から教わったことというのは、すぐ忘れてしまうんですね。けれど、自分で実感したこと、自分で発見したことは、絶対に忘れない。一生モノなんです。自分がキャメラを回したり、演出をしてみたり、いろいろなことにもみくちゃになるうちに、ハッと何かに気づく瞬間が必ずある。自分が今まで、何がわかっていなかったのか。それに気づいた次の日から、目に見えて顔つきが変わります。そんな場をできるだけ作っていけるような、カリキュラムを目指しています。この学校が実践、体験の場を重視するというのはそういうことですね。

まず最初に行われるのが「30秒課題」。16ミリキャメラをいきなり持たされて「必ずワンカットで30秒撮ってこい」と言われるわけです。はじめはみんな、戸惑います。「撮りたいのは長編だし、ビデオカメラ持ってるし、こんなことする必要がどこにあるんだ?」と。でも実際にカメラを回してみると、みんな身を持って痛感するわけです。30秒間をワンカットで持たせるというのがいかに大変なことなのかを。脳みそを柔軟にして、自分にはない引き出しをどんどん増やしてがんがん開けていくという、この学校での基本姿勢がここではっきりとします。

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高等科に進むと、さらなるシフトチェンジが待っています。初等科では「自分の撮りたいものとは」といったオリジナリティを見極めますが、高等科では「それを世の中に受け入れさせるにはどうしたらいいか」ということを突き詰めにかかります。もちろん講師は「ウケる映画を作れ」などとは一言もいいません。君が面白いと思うことを、一般のお客さんに伝えるためには何が必要か。そういった手練手管を究明していくのが、高等科での作業です。具体的にはまず「コラボレーション」として、講師であるプロの映画監督に付いて、実際に現場を踏みながら1本の作品に仕上げる、ということをします。

そこでの経験を踏まえて、カリキュラム後半では、いよいよ自分の“勝負作”の企画を練り上げる作業に入ります。「シナリオ」と「演出」の二つのワークショップに参加して、自分の作りたい映画を具体化していきます。自分の書いたシナリオを実際に演出してみて、その成果をもう一度シナリオにフィードバックさせて、といった作業を繰り返します。映画という世界にはこんな可能性があるんだ、とか、自分にはこんな引き出しがあったんだ、といった発見と体験を、ぜひ皆さんひとりひとりに積んでいただきたい。そして高等科で、世間一般に向けた“世に問う作品”が生まれて、それを映画美学校から、世界に発信していけたらと思っています。

(2011年8月20日 フィクション・コース初等科ガイダンスにて)