フィクション・コース第26期高等科 2023/9/30(土)開講!

担当講師:万田邦敏(映画監督)、池田千尋(映画監督・脚本家) 
技術講師:山田達也(撮影)、臼井勝(録音)

■初等科体験から高等科体験へ

初等科体験とはいったい何だったのか? 映画に対する知見の拡大、他では経験できない実践の積み重ね、仲閒との出会い、または疲労、困ぱい、すり切れ、落胆、あるいは自分自身の可能性と不可能性の発見、要するにふつうの言葉でいうところの「青春」? だったら高等科体験は、単なるその繰り返しか? 「単なる」であれば、高等科が存在する意義は薄い。高等科には、初等科とは「異なる」青春が用意されている。「10分短編実習」「コラボレーション実習」を経て、「修了制作」に至る高等科の体験が常に受講生に問うのは、初等科の体験=青春を、いかに血肉=思想に鍛え上げるかです。

■新たな仲間作り「10分短編実習」

受講生が企画開発したシナリオを選抜し、受講生が監督、及び技術スタッフとなって10分の短編を作るこの実習は、初等科の撮影実習や修了制作の繰り返しでありません。大きな違いは、メンバーが高等科生同士という仲間意識の更新です。受講生は顔なじみでも、みなそれぞれ高等科に向けた目標や希望を持っています。実習を通して、まずは「新たな」仲間作りをして下さい。

■“プロとの映画作り”「コラボレーション実習」

映画作りにおいて何をどれだけ経験したか、その「量」の差が、いわゆるプロとアマを分かちます。そのことを嫌というほど思い知るのは、プロと同じ現場に立ったときのプロの動きが、アマであるあなたとはまったく違うことを目の当たりにしたときです。大事なのは、このプロと「同じ現場」に立つことで、「量」とは何かを具体的に問うという体験です。
「コラボレーション実習」では、プロである講師陣とともに20分程度の短編映画を企画し、撮影し、仕上げます。受講生のなかからも監督が選ばれ、受講生全員が講師陣(当然ながら技術講師も、またプロの現場スタッフとして参加する)と「同じ現場」で、協働(コラボ)しながら映画作りを行います。しかし、「量」が常に勝利するわけではありません。「量」に伴うべきは「質」だし、「質」はときとして「量」の多寡と無関係に、つまりプロとアマの差を超えて、きっとあなたを動かします。その「動き」が、受講生を「修了制作」での「動き」へと導きます。

■体験を血肉化する「修了制作」

「青春」の後に来るのは「旅立ち」です。そのための最後の準備が「修了制作」です。「10分短編」「コラボ」で得た体験を、まずは一人にもどって醸成させてシナリオを企画し、再び仲間とともに一部映像化(ビデオ課題)し、シナリオを完成させます。完成したシナリオは選考にかけられ、選抜されたシナリオを受講生だけで制作します。制作費は学校の予算およそ45万円です。「修了制作」を経て、果たしてあなたの高等科体験は血肉=思想となって、修了後のあなたを何処へと旅立たせるでしょうか。

講師からのメッセージ

「言葉にしていこう」

私が授業で行うのは、受講生のみなさんが作る10分短編作品と修了制作作品のシナリオ開発の手助け、10分短編作品の上映講評を通しての演出技術のアドバイス、コラボレーション作品の共同製作です。
「手助け」と「アドバイス」に関しては、幾分かは「ダメ出し」の気味を帯びることもありますが、原則的には「こんな考え方があるので、そのことについて考えて欲しい」というスタンスで臨むつもりです。映画は感性で作るものではなく、まずもって思想で作るものです。ここでいう思想とは、映画表現とはいったい何かという問いに対するその人なりの思索の積み重ねのことです。つまり、「考える」ということです。「ダメ出し」があるとすれば、それは「考えてね」と言っているのです。同じことですが、「言葉にしてね」と言っているのです。
「共同製作」に関しては、1本の短編映画を受講生のみなさんと文字通り共同で作るということです。ここでは、私の思想とみなさんの思想を実践に変換していく様々な局面を体験することになりますが、思想がそのまま丸ごと作品として表現されることはあり得ず、多くの思い違い、考えの甘さ、強いられる妥協、しかしときとして思わぬ飛躍を経験し、思想がさらに鍛えられます。
そうして鍛えられた思想を、今度はみなさん自身が映画表現として実体化する場が修了制作となります。
それから、これはとても重要な情報ですが、過去に高等科へ進んだ受講生たちの中には、高等科のカリキュラムを受講することで自分の進む道に目覚めた人がたくさんいます。初等科だけではつかみきれなかったことを、高等科でしっかりと実感し得たのだと思います。彼らは監督に限らず、脚本家や技術スタッフやプロデューサーとして今も映画に関わり続けています。
ーーーーーーー万田邦敏

初等科を経て新たなスタート地点に立ったみなさんと共に何ができるのか、どんな化学変化が起こるのか。私自身も新たな思いで、多くを学び発見していくつもりです。
みなさんは初等科での映画制作を通じて、それぞれに自身の課題を自覚し、直面している最中と思います。向き合い切れなかったこと、見つけられなかったもの、講評で指摘されて引っ掛かったままの言葉。そう簡単に答えは出ないし、自分に足りないものを自覚し続けるのは苦しい。けれど、それこそがあなたを今後押し上げ、引っ張り続ける大きな力になります。
映画に向き合うことは、自分という人間に向き合うことです。自分が持つ思考、言葉、知識、それがどれだけ足りないのか、弱点は何か。思い知りながら、自分の映画とは何か探し続ける。思い知るためには、他者の助言や指摘が必要にもなります。
あなたの課題を大きく目の前に掲げ、映画を作り続ける。一人では難しいことも、誰かがいれば可能にできる。映画美学校はそんな場所だと思います。
ーーーーーーー池田千尋

F26kou_curriculum【10分短編(チームで撮る)】
10分短編①②では、各自が10分短編の企画を提出し、その後、万田クラス、池田クラスに分かれて企画検討の講義を受け、企画をシナリオ化します。完成したシナリオから2本が選抜され、クラスをまたいで制作チームを再編成し、原則シナリオ執筆者が監督となってチームごとに準備・撮影・仕上げを行い、作品完成後に上映と講評が行われます。
10分短編③では、監督ひとりが選抜され、全員で課題のシナリオの準備・撮影・仕上げを行い、作品完成後に上映と講評が行われます。

【コラボレーション実習】
講師とともに短編映画のシナリオを開発し、撮影し、仕上げを行います。監督講師は万田と池田(予定)です。
コラボレーション実習の目標は大きく分けて2つです。
1.講師(プロ)はどのようにシナリオを構想するのかを間近に見る
 受講生は、コラボで製作する映画のシナリオを担当講師と共に企画、執筆します。通常の企画講評・シナリオ講評とは違い、講師も自分の作品としてシナリオ作りに参加してきます。講師が何を考え、何を拠り所とし、何を狙っているのか、講師のシナリオ作りの現場を共作者として体験します。シナリオの開発期間は約2ヶ月です。
2.講師(プロ)の演出技術・撮照録技術に間近に触れる
 監督は講師と受講生(代表者)が務め、またプロである撮影照明講師、録音講師も参加して撮影・仕上げを行います。プロと共に行う映画作りは、受講生仲閒だけでの映画作りとはまったく別と言っていいほどの体験です。彼らの技術に同じスタッフ仲間として間近に触れることで、受講生の意識と技術は確実にレベルアップします。撮影期間は4日間程度を想定、ポスプロ期間は2ヶ月程度です。

「ハードを通過した後に残る経験値」(万田邦敏)
コラボのシナリオ作成では、講師の思想に受講生みなさんの思想をぶつけ、互いの思想を鍛え直すことによってより強度のあるシナリオの完成を目指すことになろうと思います。具体的に言えば、まずは講師がお題を出し、受講生の皆さんがそのお題を膨らませ、再び講師が参加して、講師と共にシナリオを仕上げていくということになります。シナリオは、芝居を考えながら書かなければなりません。ここで言う芝居とは実際的な演技のことではなく、アクションとリアクション、関係性の変化、ドラマ、つまりは生身の身体と感情のことです。芝居は、映画のフィクションとリアルを支える重要な要素です。芝居についての思索は、シナリオを作成しているあいだじゅう、ずっと問題になるだろうと思います。そしてそれは、撮影の現場でも問題になることです。芝居を成立させるために必要なものは何か。どのパートのスタッフも、結局はそれに向かって思考し、準備し、実行します。演出は、私と池田さんと受講生の代表者が分担して務めます。シナリオ作りと同様に、そこでも互いの思想がコラボレートします。撮影は、準備も含めてそれなりにハードです。しかしそれは、意味のないハードワークではありません。ハードを通過した後には経験値が残ります。その経験値は、みなさんが修了制作を作る現場で活かされるし、その後のみなさんの映画との関わりにおいて活かされ続けるはずのものです。

◇準備(2月〜4月)
準備段階における課題・問題点を全員で共有し、各部ごとの準備を進めます。また、実際のロケ地探しなども進めて行きます。
◇機材の使い方・テスト撮影(4月)
撮影に向けて、撮影部・照明部・録音部はあらためて機材についてレクチャーを受け、撮影本番に向けてのテスト撮影を行います。
◇リハーサル(4月)
実際に撮影で使用するシナリオをもとに、芝居を作り込んでいく過程を受講生全員で体験します。
◇撮影(5月予定)
講師陣とともに撮影現場を体験します。初等科で行ったミニコラボ実習とは比較にならない、経験したもの曰く「これを通るか通らないかでは全く違う」現場体験が待っています。
◇コラボレーション編集(5月)
完成までの作業を自分たちで行います。スタッフを再編成し、全員で編集から仕上げまで取り組みます。
◇デジタル・グレーディング(5月)
映像の色彩補正作業は、作品の最終的なルックを決める大事な作業です。
◇仕上げ作業(5〜6月)
編集同様、完成までの作業を録音講師の指導を受けて自分たちで行います。「DavinciResolveサウンド講義」を経て、本格的な整音作業を体験します。「音で映画を豊かにする」ということはどういう事なのかを実際に機材を動かしながら体験して行きます。ファイナルダビングミックスには録音講師が立ち会います。

【修了制作】
受講生各人が、まずは自分自身の修了制作作品となる24分から30分尺のシナリオの企画・開発を行います。その後、企画検討→シナリオ化→シナリオ検討→一部分の映像化(&上映と講評)→最終シナリオ(&シナリオ検討会)と続きます。これまでの高等科体験で得たものを総動員して、書き物・映像両面から検討を重ねて最終シナリオと最終演出課題を完成させます。最終シナリオ、最終演出課題をもとに、2024年9月に修了制作を選考します(修了制作の本数は受講生の人数(つまり予算)によって変動します)。10月から制作を開始し、4月ごろに完成を予定しています。完成尺は30分です。

【映画表現論】
フィクション・コース初等科との合同講義で、映画表現論(2回)を行います。